緊縮財政で医療の質低下 命の格差広がる英国 <夏になると、英国では「ホリデーハンガー」という言葉が聞かれる?直訳すれば「休日の飢え」?長期の休みに入り、給食がなくなると飢える子供が増える??>
2017年 09月 24日
9月22日付朝日新聞朝刊15面に、「欧州季評」という欄がある。筆者は、ブレイディみかこ氏だ。
今日は、この筆者に学ぶことにした。
まず筆者は、「9月から、息子が中学校に通い始めた。小学校は公立カトリック校に通っていた(英国は公立でも宗教校がある)が、中学からは、公営住宅地ど真ん中の地元校に通っている。
息子が通ったカトリック校は、隣接する高級住宅地と公営住宅地の2教区の信者のために建てられたが、教会に所属し、毎週ミサに通ってくる家庭は、高級住宅地の方に多いので、比較的余裕のある家庭の子たちが多かった。
つまり、中学生になった息子はまったく違う層の子どもたちが通う学校に入ったのである。
初登校の日、彼はショックを受けた表情で帰ってきた。
「教室で「どんな夏休み過ごした?」って話したんだ。そしたら「ずっとおなかがすいていた」といった子がいた・・・」
夏になると、英国では「ホリデ―ハンガー」という言葉が聞かれる。
直訳すれば「休日の飢え」。
長期の休みに入り、給食がなくなると飢える子供が増えることから、こんな言葉が使われるようになった。
フードバンクでは、子ども用の夏季緊急食糧も配布されている。」と教えてくれる。
続けて筆者は、「ロイヤル・カレッジ・オブ・ペディアトリックス・アンド・チャイルド・ヘルス(英・王立小児保健協会)は、今年1月発表の報告書で、子どもたちの健康が危機にさらされていると警告した。
「特に懸念されるのは過去5年間で拡大した子供たちの健康格差」と指摘し、「乳幼児期や学童期の健康上の問題は、未来の成人たちの問題となり、経済的にも生産性を減少させる」と。
1998年から2002年のスコットランドの調査で、グラスゴーのたった数キロしか離れていない高級住宅地レンジ―と貧困区カルトンで、男性の平均寿命の差が28年(前者が82歳で後者が54歳)だったことが判明した。
そこまで極端な数字ではないにしろ、英国全土でも、ゼロ年代にはわずかに縮小していたはずの健康格差が、10年以降、再び拡大している。
15年の統計で、高級住宅地と貧困区の男性の平均寿命の差は、イングランド平均で9.2歳、女性で7.1歳。
平均寿命の延びもほぼ横ばいだ。
英国は世界で最も豊かな国の一つであり、医療技術は発展こそすれ、後退することはない。
ならば平均寿命は右肩上がりで伸びていくのが当然だろうが、10年以降、足踏み状態だ。
健康格差が広がり、平均寿命の伸びが止まった10年は、何が起きたとしだろう。
それは労働党から政権を奪還した保守党が、戦後最大と言われる規模の緊縮財政政策を始めた年である。
経済学者たちに「危険レベル」と言わしめるほど医療や社会保障への財政支出を切り始めた年だ。
格差が広がっているのは寿命だけではない。
日常生活に支障なく過ごせる期間を示す「健康寿命」の格差はさらに大きい。
マンチェスター大学が7月に発表した調査によれば、高級住宅地と貧困区の健康寿命の差は、実に20年近くまで広がっている。
これは緊縮財政によるNHS(国民健康サービス)の人員削減、インフラ削減、と明らかにリンクしている。NHSが提供している医療サービスの質が落ちているのだ。
「ゆりかごから墓場まで」と言われ、公的医療モデルとなった無料の国家医療制度NHSも、予算削減でサービスが劣化し、注射一本打つにも何週間も待たされる。
だが、裕福な層はこうした事実の影響は受けない。高額な医療費を払って私立病院を使うことができるからだ。
寿命格差や健康寿命格差ほど赤裸々に経済的不平等を示すものはない。
これは命の格差である。
それが広がるほど、富めるものは生き、貧する者は死ぬしかない野蛮な時代に社会が戻っているということだ。
戦争が人の命を脅かすように、経済政策も人の命を奪う。」と教えてくれた。
最後に筆者は、「英国のキャメロン元首相の時価150万ポンド(約2億1千万円)の別荘がファッション誌で紹介されて話題になったが、「まあ落着け、単なる不況じゃないか」と書かれたポスターがキッチンに飾られたことが分かって物議をかもしている。
「まあ落ち着け。早死にするだけじゃないか」
「まあ落ち着け。子供が飢えているだけじゃないか」の文句では洒落たインテリアにはならないだろうが、これこそ為政者と庶民の認識のギャップを端的に示している。
彼に言わせれば、格差も「まあ落ち着け、昔から貧しいものは先に死んできたじゃないか」なのかもしれない。
キャメロン元首相は、EU離脱の国民投票を行った首相として歴史に名を残すだろう。
彼を辞任に追い込んだ国民投票の結果は、現状への怒りとその打破を求める人々の声を反映したものではなかったか。
離脱派が多かった貧しい北部の人々は、残留派が多かった南部の人々に比べると、75歳までに死亡している確率が20%高いという。
昨年の英国のEU離脱投票の結果は、欧州の時計の針を逆戻りさせているのではない。
彼らがくらしている社会保障の野蛮こそが時代に逆行しているのだ。」として締めくくった。
読んで勉強になった。
英国は「ゆりかごから墓場まで」といわれ、若い頃の憧れの国だったが?
「初登校の日、彼(筆者の中学生の息子)はショックを受けて帰ってきた。
「教室で「どんな夏休みを過ごした?」って話してたんだ。そしたら、「ずっとおなかがすいていた」といった子がいた・・・」とのこと、
「1998年から2002年のスコットランドの調査で、グラスゴーのたった数キロしか離れていない高級住宅地レンジ―と貧困区カルトンで、男性の平均寿命の差が28年(前者が82歳で後者が52歳)だったことが判明した」とのこと、
「英国本土でも、ゼロ年代はわずかに縮小してはずの健康格差が、10年以降、再び拡大している。15年の統計で、高級住宅地と貧困区の男性の平均寿命の差は、イングランド平均9.2歳、女性は7.1歳。」とのこと、
「健康格差が広がり、平均寿命の延びが止まった10年は、何が起きた年だろう。
それは労働党から政権を奪還した保守党が、戦後最大と言われる規模の緊縮財政を始めた年である」とのこと、
「 マンチェスター大学が7月に発表した調査によれば、高級住宅地と貧困区の健康寿命の差は、実に20年近くまで広がっている」とのこと、
「「ゆりかごから墓場まで」と言われ、公的医療のモデルとなった無料の国家医療制度NHSも、予算削減でサービスが劣化し、注射一本うつにも何週間も待たされる」とのこと、
「(EU)離脱派が多かった北部の人々は、残留派が多かった豊かな南部の人々に比べると、75歳までに死亡する確率が20%高いという」とのこと、等々英国の今日事情を知ることができた。
たしかに、筆者の「寿命格差や健康寿命格差ほど赤裸々に経済的不平等を示すものはない。これは命の格差である。それが広がるほど、富める者は生き、ひんする者は死ぬしかない野蛮な時代に社会が戻っているということだ」との指摘は当たっている、と思った。
人間はひとりひとりみな可能性があり、互いに支え合いながら生きている。寿命や健康寿命に貧富で差があるということは、人類社会全体の損失である。
命の格差はあってはならない、と思った。
ここ数十年高額の健康保険料を払っている。
医者に病気ではかからない「健康な体に生んでくれた両親」感謝しながら、喜んで保険料は払い続けている。
日本の皆保険制度は世界に誇るべき制度・文化ではないか、とも思っている。