憲法を守る道を行く
2014年 01月 07日
社説は、「吉田邸の建物と庭を思い出しつつ、辻井(堤清二)は回顧録「叙情と闘争」(中央公論社)の中で、こう考えを巡らせます。
<今日の保守政治の堕落にあの世の吉田茂が烈火のごとく怒っているのではないか(中略)だから燃えてしまったのだ>
吉田が戦時中、東条英機ら軍閥の無謀な戦争計画を批判して、憲兵隊に逮捕されたことも、辻井は回想します。
<僕の考えからすれば、平和憲法とその思想を高く掲げることによって独立国家への道を歩むしかないと思うから、その道は細く険しいかもしれない>
<憲法九条を変えて軍備を持ってしまうことは、吉田茂の残した宿題に正面から答える道ではないように僕は思う>
つまり、今の保守政治に「堕落」の烙印を押し、憲法改正に反対する意思表明です。 (中略)
<政治家の系譜を辿ってみると、吉田茂を源流とする流れと、戦前のナショナリストの流れにいる岸信介の系譜、この二つがあるように僕には見える>
辻井はそう観察します。岸を祖父に持つ安倍首相がどちらに属するかは自明です。「戦前のナショナリストの流れ」を引き継ぐ政治家が膨張しているように思われる今日の政治状況です。」と指摘した。
つづけて社説は、「終戦前に生まれた国会議員は68人にとどまり、戦後生まれは654人に達します。最高齢の石原慎太郎氏でも終戦時12歳の少年にすぎません。
東京新聞(中日新聞東京本社)社会部編の「憲法と、生きる」(岩波新書)では、政界引退した自民党元幹事長の古賀誠氏が、自衛隊の海外派遣について警告しています。
<たとえ小さな穴でも、一つあけば広がっていく、先の戦争の時もそうだった。>
戦争で父を亡くした古賀氏の政治哲学です。彼は「吉田茂を源流とする流れ」にいた一人です。こうした政治家は、いまや少数派になったのでしょうか。」と、懸念をあらわにした。
最後に社説は、「辻井は実業家として、「池袋サンシャインシティ」を開発します。占領下では「巣鴨プリズン」があった場所です。
A級戦犯の容疑者として、岸は3年間、ここで幽囚の日々を送りました。
郷里の山口県から離れる前に、旧制一校の恩師から「自決」を促す短歌をもらいます。でも、岸はこんな歌を返しました。
<名にかへてこのみいくさの正しさを来世までも語り残さむ>
「みいくさと」とは聖戦です。安倍首相も国会で「侵略戦争の定義は定まっていない」と答弁しています。祖父から同じ歴史認識を受け継いでいると感じられます。
辻井は昨年11月に亡くなりました。彼が「細く険しい」という平和憲法を守る道に、私たちは立ちます。」と、憲法擁護の姿勢を明らかにして締めくくった。
社説を読んで、自民党のなかに、憲法をめぐる二つの流れがあることを知った。辻井氏の小説は、一遍も読んだことがないが、「叙情と闘争」という回顧録は一度読んでみたくなった。
最後に、東京新聞が「憲法擁護」の立場をはっきりさせたことは、勇気ある判断だと思った。東京新聞への応援の気持ちを込めて、改めて購読し続けることにした。